ゲイの息子を持つ黒人と白人の父親たちの復讐を描いたRazorblade Tearsを読みました。

よみやすさレベル :8★★★★★★★★☆☆
総語数 : 100,464
それぞれ刑務所に服役した過去を持つ黒人のIkeと白人のBuddy Leeは、同性婚をした息子たちが惨殺された事をある日突然知らされる。
息子がゲイだという事実を受け入れられずにいた2人は復讐という目的に向けて団結し、危険を顧みず犯人捜しを始める。
犯人への激しい憎しみと、偏見を抱いてしまった息子に対する贖罪に突き動かされる父親2人の物語。
スラングの嵐すぎる
読み始めてすぐに気になったのが、登場人物たちの話し言葉。
“Was you at the wedding reception?”
“We was both shit parents”
「あれ?wereじゃないの?」
そういえばこういうの前にも気になった事があったなぁと思いつつ調べてみると。
参考にしたのはこのページ。
いくつかの回答をかいつまむと、
・文法としては間違っており標準の英語では無いが、方言としては存在している。上流階級や都市部よりも労働者階級、農村部に多い。
・教養レベルの高くない人々が使う。彼らはそれを「クール」だと思っている。
・話し言葉であるから。標準の言葉と「若者の言葉やスラング」との違い。
・世界中のどの国でもあるように、「その言語の正しい形」というのをよく知らない人々がいる。そしてその人たちは家族や友人たちが話す言葉を同じく話す。
・その人が使う文法構文や語彙から、その人の教養レベルや社会的背景が分かる。オバマ(元)大統領はそういう言葉は使わない。なぜなら彼は教養があり、教養のある人々に囲まれて育ったからだ。
Quoraより引用
なるほど、こういう話し方をしていたのは主人公2人を始めギャングなどの荒くれものだけだったので納得がいった。
そしてもう一つ気になったのがダブルネガティブ。
“Ike, I ain’t going nowhere.”
”You didn’t say nothing about him.”
否定の否定は肯定と習ったけど、話し言葉では強調を込めてダブルネガティブを使うらしい。
なので、上の文は二つとも強調した否定文。
「アイク、私はどこへも行かないよ」
「お前は彼の事をなんにも言わなかった」
になる。
ただこの表現は多用しすぎると教養がない様に聞こえるようで。
確かに、本の中でも警察官や社会的地位のある人たちはこんな風には話していなかった。
登場人物のほとんどが始めから終わりまでずっとこの調子の言葉なので、もはやスラングが標準語というレベルだ。
読みにくい場合は「聞き読み」がおすすめ
前述の様にセリフが標準の英語ではないものが多いのと、あまり馴染みのない単語が多く少し読みづらかった。
途中からオーディブルで朗読を聞きながらの「聞き読み」に切り替えると、すらすらと進める事ができた。
ナレーターの声が低く響くイイ声でめちゃカッコよい。
頭の中のIkeにピッタリのイメージなのに、Buddy Leeのセリフの部分ではこれまたキャラにピッタリの別人の声になる。さすがプロのナレーター。
Razorblade Tearsのオーディオブックは朗読スピードがかなりゆっくりなので、聞き読みをする場合は少し早めた方が良いかもしれない。
通常のスピードでの総再生時間は12時間。
心に迫る心理描写
罪を犯し服役した為に息子が父親を必要としていた時期に傍にいられなかった過去、黒人であるが故に理不尽な差別を受ける辛さを知っていながら、ゲイの息子に対して偏見を持った態度をしてしまった事、真っすぐに向き合い理解をしようとしなかった後悔。
元服役囚として出所してから必死で努力し築き上げた今の生活や会社の従業員を守る責任を理解しながらも、息子を惨殺した犯人が今も自由に生活を送っている事実に葛藤するIke。
今では「まとも」な人のIkeが復讐心と息子への贖罪で「昔の」Ikeに戻っていく。
アクションシーンも読み応えがあるが、父親の複雑な心理描写が秀逸だった。
Ikeが発する一言一言に説得力と重みがあり心に迫った。
S.A Cosbyの
Razorblade Tearsご興味あれば是非。
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